第十五夜「女子トイレ」

学校内

私がまだ、中学2年生だった頃の話です。

昼休み、私は女子トイレ向かった。

にぎやかな廊下を進み、ドアを開ける。

洗面の鏡には髪を整える同級生達

楽しそうなお喋りの声を横目にそそくさと個室に入る

腰を下ろして、ふと息をついたときだった。

さっきまでの廊下から聞こえる騒がしい音や

鏡の前で雑談する声が全く聞こえない。

あれ?ちょっと変だなそう思ったとき

トイレ入り口のドアが開く。

「キィ……ドン……」

そして奥の個室に入る音がする

ただ同級生がトイレに来ただけだけど

妙に静かで、少し怖いな

さっさと出ちゃおう、そう思った次の瞬間

「……うう……っ」

え、これ、もしかして、泣いてる。

もしかして、いじめ?

「……う……く……くく……」

「くくっ……くくっ……ふふふふふ……」

これ、泣いてない、声をころして、笑ってる。

背筋が凍った。

……やばい。これ、人でも人じゃなくても、どっちでも怖い。

逃げなきゃ!

息を殺して静かに立ち上がる。

鍵に手をかけて──一気に飛び出して、廊下に駆け出す。

それだけを考えて、鍵を回そうとした。

「……ガッ!」

えっ……?

鍵が回らない。何度やっても、手応えがない。

なんで!? なんで!?

パニックになる。

そのとき隣の笑い声がピタッとまる。

気づかれてる!

どうしよ 次の瞬間、隣から

「ぅぅぅぅぅぅ……」という低い声が

そして足元の隙間から真っ黒い墨のような手が

私の足を捕まえようと、地面を這ってくる。

「──ひっ、いやぁああああっ!」

私は叫びながら、全力でドアを蹴り破った。

ドンッ、と音を立てて開いたドアから、騒がしい廊下に飛び出す。

助かった……助かった……!

背後から──

「……あぁぁ……ぁぁぁ……」

まだ、あの声が追ってくる。

振り返ると、廊下の子たちもざわめき始めていた。

「キャッ! なに!?」

「ちょっ、やばくない!?」

誰かがトイレを覗き込む。

そこには──

──そこには、もう何もいなかった。

しかし私は確かに見た。

私たちは確かに聞いた。

その後、そのトイレは使用禁止になっていた。

先生たちは何か知っていたのだろうか。

 

---今夜も「旅する怪談」をお読み頂き、ありがとうございました。怪談の旅はまだまだ続きます。次の夜も、どうかお付き合いください。---

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学校内

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