私がまだ、中学2年生だった頃の話です。
昼休み、私は女子トイレ向かった。
にぎやかな廊下を進み、ドアを開ける。
洗面の鏡には髪を整える同級生達
楽しそうなお喋りの声を横目にそそくさと個室に入る
腰を下ろして、ふと息をついたときだった。
さっきまでの廊下から聞こえる騒がしい音や
鏡の前で雑談する声が全く聞こえない。
あれ?ちょっと変だなそう思ったとき
トイレ入り口のドアが開く。
「キィ……ドン……」
そして奥の個室に入る音がする
ただ同級生がトイレに来ただけだけど
妙に静かで、少し怖いな
さっさと出ちゃおう、そう思った次の瞬間
「……うう……っ」
え、これ、もしかして、泣いてる。
もしかして、いじめ?
「……う……く……くく……」
「くくっ……くくっ……ふふふふふ……」
これ、泣いてない、声をころして、笑ってる。
背筋が凍った。
……やばい。これ、人でも人じゃなくても、どっちでも怖い。
逃げなきゃ!
息を殺して静かに立ち上がる。
鍵に手をかけて──一気に飛び出して、廊下に駆け出す。
それだけを考えて、鍵を回そうとした。
「……ガッ!」
えっ……?
鍵が回らない。何度やっても、手応えがない。
なんで!? なんで!?
パニックになる。
そのとき隣の笑い声がピタッとまる。
気づかれてる!
どうしよ 次の瞬間、隣から
「ぅぅぅぅぅぅ……」という低い声が
そして足元の隙間から真っ黒い墨のような手が
私の足を捕まえようと、地面を這ってくる。
「──ひっ、いやぁああああっ!」
私は叫びながら、全力でドアを蹴り破った。
ドンッ、と音を立てて開いたドアから、騒がしい廊下に飛び出す。
助かった……助かった……!
背後から──
「……あぁぁ……ぁぁぁ……」
まだ、あの声が追ってくる。
振り返ると、廊下の子たちもざわめき始めていた。
「キャッ! なに!?」
「ちょっ、やばくない!?」
誰かがトイレを覗き込む。
そこには──
──そこには、もう何もいなかった。
しかし私は確かに見た。
私たちは確かに聞いた。
その後、そのトイレは使用禁止になっていた。
先生たちは何か知っていたのだろうか。
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