第十夜「幽体離脱」

幽体離脱/臨死体験

中学2年の春頃、オカルト好きの友人Bが「幽体離脱のやり方を深夜のテレビで見た」と言ってきた。

その番組は、
「寝ている状態から○○の姿勢になり、△△すれば自分の寝ている姿を外から見られる」といった内容だった。

当時はちょうど、学校で怖い話が流行っていた時期で、

幽体離脱も、単純におもしろそうって軽いノリだった。

もし幽体離脱出来たら、学校にこよう、幽体で遊ぼうって約束をした。

その晩、ベッドの上で目を閉じて、Bに教えてもらった手順通りに進めた。

はじめはなにも起きなかった。

ただ、何度も試していて、ふと目を開けたとき、
自分がベッドに横たわっている姿を──天井付近から見下ろしていた。

「……まじかよ、できた?」

夢?しかし、目に映る部屋の物の配置、壁の小さな傷まで自分の部屋そのもの、夢じゃない!

試しに窓を抜けて、外に出た。

月の光が静かに街を照らしていた。

道路も、家々の形も、現実と同じだった。

ただ──ぼんやりと灰色がかって見えた、そして誰もいなかった。

街灯は灯っているのに、車も走っていないし、人影もない。

まるで全ての“人間”だけが消えた世界にいるようだった。

「やっぱ夢か……? でもリアルだな」

僕は約束通り、学校に向かうことにした。

ふわふわと浮かびながら進んでいく、しかし風を受ける感覚はない。

学校の門の手前まで来たときだった。

ドキッとした。

門の前に、灰色の女が背を向けて立っていた。

髪は肩まであり、ピクリとも動かない。

Bじゃないない、女?いや、そんなことより

直感的に「まずい、あれに見つかったら、たぶん死ぬ」

全力で自宅に向かい、自分の体に飛び込んだ。

体が跳ねるように目覚め、全身が冷や汗で濡れていた。

次の日、学校に行ってすぐ、Bに「もう幽体離脱はやめよう」と言うつもりだった。

だが、彼は来なかった。

1時間目が始まる直前、担任の先生が教室に入り、重たい声で告げた。

「……Bくんが、昨夜、亡くなったそうです」

みんながざわめいた。

「なんで!?」

「……心臓発作だそうです。眠るように静かに……」

私はその場で、何も言えずにうつむいた。

──分かっていた。

Bも、成功してたんだ。

そして、あの灰色の女に“見つかってしまった”。

それ以来、私は幽体離脱どころか、

「寝落ちする瞬間」にすら身構えてしまう。

そして、ときどき夢に見る。

あの灰色の女の横にBも背を向けて立っている。

でも少しずつ、振り向こうとしている気がする。

あれが振り向いたら、俺はどうなってしまうのだとう。

そして、最近思うことがある。

たぶんあの女は俺たちが来ることを分かっていて

待ち伏せていたんじゃないだろうか。

 

---今夜も「旅する怪談」をお読み頂き、ありがとうございました。怪談の旅はまだまだ続きます。次の夜も、どうかお付き合いください。---

※本記事に登場する地名・人物名は、実在のものとは関係ありません。あなたの身のまわりにも、不思議な出来事や忘れられない恐怖体験はありませんか?『旅する怪談』では、読者の皆さまからの体験談を随時募集しています。お寄せいただいた話は、当ブログにてご紹介させていただく場合がございます。体験談のご投稿は、【 投稿フォーム 】よりお待ちしております。

幽体離脱/臨死体験

コメント