中学2年の春頃、オカルト好きの友人Bが「幽体離脱のやり方を深夜のテレビで見た」と言ってきた。
その番組は、
「寝ている状態から○○の姿勢になり、△△すれば自分の寝ている姿を外から見られる」といった内容だった。
当時はちょうど、学校で怖い話が流行っていた時期で、
幽体離脱も、単純におもしろそうって軽いノリだった。
もし幽体離脱出来たら、学校にこよう、幽体で遊ぼうって約束をした。
その晩、ベッドの上で目を閉じて、Bに教えてもらった手順通りに進めた。
はじめはなにも起きなかった。
ただ、何度も試していて、ふと目を開けたとき、
自分がベッドに横たわっている姿を──天井付近から見下ろしていた。
「……まじかよ、できた?」
夢?しかし、目に映る部屋の物の配置、壁の小さな傷まで自分の部屋そのもの、夢じゃない!
試しに窓を抜けて、外に出た。
月の光が静かに街を照らしていた。
道路も、家々の形も、現実と同じだった。
ただ──ぼんやりと灰色がかって見えた、そして誰もいなかった。
街灯は灯っているのに、車も走っていないし、人影もない。
まるで全ての“人間”だけが消えた世界にいるようだった。
「やっぱ夢か……? でもリアルだな」
僕は約束通り、学校に向かうことにした。
ふわふわと浮かびながら進んでいく、しかし風を受ける感覚はない。
学校の門の手前まで来たときだった。
ドキッとした。
門の前に、灰色の女が背を向けて立っていた。
髪は肩まであり、ピクリとも動かない。
Bじゃないない、女?いや、そんなことより
直感的に「まずい、あれに見つかったら、たぶん死ぬ」
全力で自宅に向かい、自分の体に飛び込んだ。
体が跳ねるように目覚め、全身が冷や汗で濡れていた。
次の日、学校に行ってすぐ、Bに「もう幽体離脱はやめよう」と言うつもりだった。
だが、彼は来なかった。
1時間目が始まる直前、担任の先生が教室に入り、重たい声で告げた。
「……Bくんが、昨夜、亡くなったそうです」
みんながざわめいた。
「なんで!?」
「……心臓発作だそうです。眠るように静かに……」
私はその場で、何も言えずにうつむいた。
──分かっていた。
Bも、成功してたんだ。
そして、あの灰色の女に“見つかってしまった”。
それ以来、私は幽体離脱どころか、
「寝落ちする瞬間」にすら身構えてしまう。
そして、ときどき夢に見る。
あの灰色の女の横にBも背を向けて立っている。
でも少しずつ、振り向こうとしている気がする。
あれが振り向いたら、俺はどうなってしまうのだとう。
そして、最近思うことがある。
たぶんあの女は俺たちが来ることを分かっていて
待ち伏せていたんじゃないだろうか。
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