第十四夜「臨死体験」

幽体離脱/臨死体験

大学1回生の終わり頃、当時初めて付き合った彼女の一人暮らしのアパートによく行っていた。

その日も彼女の家に行く為に夜道をバイクで走っていた。

そのハズなのに──

──気がついたとき俺は、ベッドに寝かされている”俺”を、真上から見下ろしていた。

(あれ?どこだここ……浮いてる?)

目の前には生気なく、ベッドに寝る”俺”と

その”俺”に泣きながらすがっている母に、思わず声をかけた。

けれど声は届かない。

──死んだのか……俺。

しばらくは現実を受け入れきれなかったけれど、

時間が経つにつれ、諦めにも似た静けさが胸に広がっていった。

そうだ、彼女は今どうしてるかな。

その瞬間、俺の意識はすーっと引き寄せられ、

次に気がつくと、彼女の部屋の天井に浮かんでいた。

ソファに座っていた彼女が、ふと上を見上げた。

……目が合った?

そういえば以前、彼女は「少しだけ霊感がある」と言っていた。

その時は、正直信じてなかったけど。

「ごめん。俺、死んじゃったみたいなんだ」

届かないはずの言葉をつぶやく。

返事はない。けれど彼女の目には、涙が浮かんでいた。

俺は静かに病室へ戻った。

母は少し落ち着き、うなだれているようだった。

そんな様子を見ていたとき、事件は起きた。

──ベッドに寝ていた“俺”が、目を覚ました。

ありえない。

俺はここにいるのに。

目を覚ました“俺”を見て、母は心底驚きながらも、また泣いていた。

俺はとにかく意味が分からなかった。

どういうことだ?一体何が起こってる?

母親に抱きしめられる”俺”

次の瞬間、“俺”がこちらを見た。ぞっとした。

にやりと──いやらしく、歪んだ笑みを浮かべていた。

やばい、こいつ、絶対にやばい。

母の背後で、そいつは首を絞めるような仕草をしてみせた。

(やめろ! ふざけるな!)

叫びが空気に消えていく。

そのとき、病室の窓の外が、誰かが立っていることに気づく

そして、その背後から強烈な光が差す。

眩しさに目がくらんだ瞬間──

全身に激痛と激しい倦怠感に襲われる

──なんだこの感覚?

次に目を開けた時、目の前には

かーさんの驚いた顔があった。

「……かーさん?」

「どうしたの?大丈夫?」

あれ、、、戻ってる、、、あれは夢か?

でも、この部屋も母親の服装や様子も

さっきまで見ていた状況と全く同じだった。

やっぱり、あれは現実だったんだ。

でも窓の外の人は一体はなんだったんだろう。


その後、結婚し、30才も過ぎたころ。

家族である全国的に有名な神社を訪れた。

本殿で手を合わせた瞬間

瞼の向こうが強く光ったかと思うと

急に違う場所に浮いていた。

「は?ここは──」

振り向くと、そこは、あの日の病院。

俺は、あの病室の外に浮いてる。

そして、ベッドに横たわる俺が起き上がる。

ということは、窓の外に現れたのは、俺自身?

しかし、どうやって、過去の俺を救えばいい?

その時、背後から強い光が自分を貫通して病室を照らした。

そして、何かに強く引っ張られる感覚があり

気づいたときには神社の石段に立っていた。

目の前には家族。振り向けば、本殿。

今日がちょうど“あの日”から10年後だったことに、今さら気づく。

手を合わせ、心の中で神様に深く感謝した。


あの時、俺の体に入った者の正体は今でもわからない。

浮遊霊なのか、悪霊と呼ばれるものだったのか──

それとも、もっと別の、言葉にできない“何か”だったのか。

そして、俺はたまたま助かったけど、

あのまま身体を乗っ取られたままの人も、

この世界には……いるのかもしれない。

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