大学1回生の終わり頃、当時初めて付き合った彼女の一人暮らしのアパートによく行っていた。
その日も彼女の家に行く為に夜道をバイクで走っていた。
そのハズなのに──
──気がついたとき俺は、ベッドに寝かされている”俺”を、真上から見下ろしていた。
(あれ?どこだここ……浮いてる?)
目の前には生気なく、ベッドに寝る”俺”と
その”俺”に泣きながらすがっている母に、思わず声をかけた。
けれど声は届かない。
──死んだのか……俺。
しばらくは現実を受け入れきれなかったけれど、
時間が経つにつれ、諦めにも似た静けさが胸に広がっていった。
そうだ、彼女は今どうしてるかな。
その瞬間、俺の意識はすーっと引き寄せられ、
次に気がつくと、彼女の部屋の天井に浮かんでいた。
ソファに座っていた彼女が、ふと上を見上げた。
……目が合った?
そういえば以前、彼女は「少しだけ霊感がある」と言っていた。
その時は、正直信じてなかったけど。
「ごめん。俺、死んじゃったみたいなんだ」
届かないはずの言葉をつぶやく。
返事はない。けれど彼女の目には、涙が浮かんでいた。
俺は静かに病室へ戻った。
母は少し落ち着き、うなだれているようだった。
そんな様子を見ていたとき、事件は起きた。
──ベッドに寝ていた“俺”が、目を覚ました。
ありえない。
俺はここにいるのに。
目を覚ました“俺”を見て、母は心底驚きながらも、また泣いていた。
俺はとにかく意味が分からなかった。
どういうことだ?一体何が起こってる?
母親に抱きしめられる”俺”
次の瞬間、“俺”がこちらを見た。ぞっとした。
にやりと──いやらしく、歪んだ笑みを浮かべていた。
やばい、こいつ、絶対にやばい。
母の背後で、そいつは首を絞めるような仕草をしてみせた。
(やめろ! ふざけるな!)
叫びが空気に消えていく。
そのとき、病室の窓の外が、誰かが立っていることに気づく
そして、その背後から強烈な光が差す。
眩しさに目がくらんだ瞬間──
全身に激痛と激しい倦怠感に襲われる
──なんだこの感覚?
次に目を開けた時、目の前には
かーさんの驚いた顔があった。
「……かーさん?」
「どうしたの?大丈夫?」
あれ、、、戻ってる、、、あれは夢か?
でも、この部屋も母親の服装や様子も
さっきまで見ていた状況と全く同じだった。
やっぱり、あれは現実だったんだ。
でも窓の外の人は一体はなんだったんだろう。
その後、結婚し、30才も過ぎたころ。
家族である全国的に有名な神社を訪れた。
本殿で手を合わせた瞬間
瞼の向こうが強く光ったかと思うと
急に違う場所に浮いていた。
「は?ここは──」
振り向くと、そこは、あの日の病院。
俺は、あの病室の外に浮いてる。
そして、ベッドに横たわる俺が起き上がる。
ということは、窓の外に現れたのは、俺自身?
しかし、どうやって、過去の俺を救えばいい?
その時、背後から強い光が自分を貫通して病室を照らした。
そして、何かに強く引っ張られる感覚があり
気づいたときには神社の石段に立っていた。
目の前には家族。振り向けば、本殿。
今日がちょうど“あの日”から10年後だったことに、今さら気づく。
手を合わせ、心の中で神様に深く感謝した。
あの時、俺の体に入った者の正体は今でもわからない。
浮遊霊なのか、悪霊と呼ばれるものだったのか──
それとも、もっと別の、言葉にできない“何か”だったのか。
そして、俺はたまたま助かったけど、
あのまま身体を乗っ取られたままの人も、
この世界には……いるのかもしれない。
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