大学三年の夏。
友人5人で出かけたキャンプは、今思えば、始まりだったんだと思う。
夜、バンガローで酒を飲んでいたとき、誰かが窓の外に光を見つけた。
ちょうど林の向こう、木々の隙間からわずかに覗くように、ぽつんと灯る暖色の光。
焚き火でもしてるのか、誰かいるのか、そんな話をしながら
俺たちはちょっとした肝試し気分で何気なくそこへ歩いていった。
夜風が気持ちよかった。虫の声、ざわつく木の葉の音。
足元は暗く、ライトを頼りに進むと、光は少しずつ近づいてくる。
やがて、ぽっかりと木々が開けた場所に出た。
そこには、灯りの灯った石灯篭がひとつ。
少しの間、沈黙が流れた。なんというか、こんなところにある石灯籠に誰が火を灯すのか?
妙な違和感と疑問が全員の頭にあったのだと思う。
その時、ミホが「ひぃっ…!」と小さな悲鳴を上げた。
それをきっかけにみんな、悲鳴を上げながら、訳もわからずに、その場から走って逃げた。
バンガローに戻るとカズが「なんだよ、急に、脅かすなよ…!」
ミホ「ごめん、なんか灯りの向こうに人の顔が…いや、たぶん気のせい…」
その晩は、なんとなく皆の口数が減って、翌朝、話題にすることもなく帰った。
しばらくしてからだった。あのとき一緒にいたカズが、唐突に連絡をしてきた。
「なあ、覚えてる? あのバンガローの近く……灯り、見たよな」思い出したくなかった俺は
適当に返した。「ほら、あのバンガロー。俺、思い出したんだよ。あの灯りのとこにいたの
玲奈だったって。だからさ……俺が迎えにいってやらないと」ぞっとした。
玲奈は、カズの元カノだった。二年前に亡くなっている。事故だった。
「おまえ、何言ってんだよ?」俺がそう言ったとき、もうカズは電話を切っていた。
その翌日、カズはいなくなった。
スマホも財布も部屋に残されたまま、失踪。警察沙汰になったけど、手がかりは何も見つからなかった。
その数週間後、今度はナオから連絡が来た。「……あの灯りのとこにいたの、じいちゃんだった気がするんだよ」それだけを言って、ナオも姿を消した。
同じように、何も残さずに。残ったのは、俺とユウスケとミホ。
けれど、ミホは泣きながら言った。「もうすぐ、あたしもわかっちゃうんだろうな。あそこにいるの、誰かって……」そして、また一人。
気づけば、俺とユウスケだけになっていた。でも、ユウスケは、まだ平気そうに見えた。「まあ、気にしすぎだって。そんなおばけとか祟りとか、あるわけないじゃん」
そう言っていたユウスケも、ある日、連絡が取れなくなった。
「ユウスケ、おまえもかよ……」そして、俺だけが残った。
あれから、数年経った。もう警察も動いてない。周囲も「もう忘れろ」と言う。
でも、俺には、わかってる。最近、夢に見たんだ。灯りのもとに、誰かが立っていた。
輪郭はぼやけてたけど、声がした。「帰っておいで」母さんの声だった。
俺が小さい頃、夜に泣くといつも言ってくれてた言葉。俺がまだ、五歳の頃だった。
……みんな、いなくなった。
本当に、みんな何を言ってたんだ?
——あの灯りのもとにいるのは……俺の母さんなのに。
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