第七夜「本棚の奥で」

学校内

冬の夕暮れ、校舎はもう薄暗くなっていた。

図書委員だった私は、忘れた手帳を取りに図書室へ戻った。

灯りはすでに落ちていて、窓から差し込む夕日がまばらに棚を照らしている。

静かで、吐く息が白かったのを今でも覚えている。

奥の棚へ向かおうとしたとき、かすかに音がした。

カタン……カタン……

本が倒れるような、でも小さすぎるその音に、思わず足を止める。

「……風?戸締りし忘れたかな……」

窓を見回りながら音がする方へと、近づいていく。

ためらいながら歩を進めると、そこは日が届かず、ほとんど闇に近い。

本棚の隙間から覗き込んだ私は、思わず息を呑んだ。

暗がりの奥、白くか細い手が、本棚の間に浮いていた。

それは何かを探すように、本の背をなぞり

時折、指先で本を引っ掛けては離す

傾いた本が元に戻り、カタンという音を立てる。

それを繰り返しているようだった。

私は、それにバレないように、息をころし

音を立てないように図書室をでた。

そして手帳のことなど忘れて、家まで帰った。

それからはもう、あの音がしても確かめに行ったりはしなかった。

 

---今夜も「旅する怪談」をお読み頂き、ありがとうございました。怪談の旅はまだまだ続きます。次の夜も、どうかお付き合いください。---

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学校内

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