冬の夕暮れ、校舎はもう薄暗くなっていた。
図書委員だった私は、忘れた手帳を取りに図書室へ戻った。
灯りはすでに落ちていて、窓から差し込む夕日がまばらに棚を照らしている。
静かで、吐く息が白かったのを今でも覚えている。
奥の棚へ向かおうとしたとき、かすかに音がした。
カタン……カタン……
本が倒れるような、でも小さすぎるその音に、思わず足を止める。
「……風?戸締りし忘れたかな……」
窓を見回りながら音がする方へと、近づいていく。
ためらいながら歩を進めると、そこは日が届かず、ほとんど闇に近い。
本棚の隙間から覗き込んだ私は、思わず息を呑んだ。
暗がりの奥、白くか細い手が、本棚の間に浮いていた。
それは何かを探すように、本の背をなぞり
時折、指先で本を引っ掛けては離す
傾いた本が元に戻り、カタンという音を立てる。
それを繰り返しているようだった。
私は、それにバレないように、息をころし
音を立てないように図書室をでた。
そして手帳のことなど忘れて、家まで帰った。
それからはもう、あの音がしても確かめに行ったりはしなかった。
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