大学生の頃、いわゆるFラン大学生で、サークルの飲み会とバイトに明け暮れ
それなりに青春を謳歌した俺だったが、どうにか就職先も決まり、無事に社会人となったある日
サークル仲間からの誘いで久々に飲みに行くこととなった。
その飲みの席は、かなり盛り上がったが、1人飲まずに、あまり喋らない友人がいた。
彼は4人の中で唯一、車で来ており、その為にテンションが上がらないようだった。
飲みの席も終盤という頃に、その友達が
「せっかくだからさ、ドライブがてら、心霊スポットでもいかね?」
そう言いだし、急遽心霊スポットに行くこととなった。
それは、地元では有名な神社で、夜になると幽霊が出ると噂されていた。
お酒の勢いで気が大きくなっていた自分たちは、どうせ何もおこらない、そう思っていた。
神社に着いたのは12時前。
神社は山の中腹にあり、駐車場からほどなく鳥居をくぐり、少し木々の間を抜けながら
石段を登っていけば、数分でまた鳥居があり、その奥に小さな社がある。
月明かりを頼りに、のぼっていく。
2個目の鳥居をくぐり、社に目をやると
社の前に白装束の人影がこちらに背を向け15人ぐらい並んでいた。
4人共、「うわっ!!」と声を出し、驚いてしまったが
すぐに恥ずかしくなり、お互い「ビビってんじゃねーよw」などと言い合った
その時は、こんな夜中に神事?ぐらいに思ってた。
少し不気味に思いながらも、4人でじゃんけんをして
負けた俺が、お賽銭を入れて願い事をしてくることとなった。
さすがに嫌だなと思いつつ、友人の手前、「まじかよー」なんて言いながら笑ってた。
しかし白装束の神主らしき人達に近づいていくと、やはり不気味だ。
もう手が届きそうなところまで近づいた時、妙なことに気づく。
なんか変だな、この静けさの中、俺たちの声は絶対に聞こえてるはず。
それにこれだけの人がいながら、妙に静かだ。
いや、何か聞こえる。
「……ヴゥゥゥ……」
獣の唸り声のような……?
恐る恐る、前に回り込み、神主の顔を見る。
その顔は、毛に覆われていて、鼻が突き出ている。
それは――狐そのものだった。
そして眼だけが俺を睨みつけていた。
全身に鳥肌が立つ、急いでここから逃げなければ。
次の瞬間、全ての狐の顔がこちらを向いた。
俺は走り出し、鳥居の所にいた3人の横を抜けて石段を降りだした。
友人は一瞬間遅れて、走り出した。
車を停めた場所まで、たかだか2~30mしかない。
それなのに、どれだけ走っても石段は終わらず、木々は続く。
息が切れ、足がもつれて、とうとうその場に座り込んだ。
息を切らしながら友人が尋ねた「どうした?何があったんだよ?」
俺「後で話すよ、それより早く逃げないと」
「でも……こんな遠くなかったやろ……?」
みんな疲れ果て、しばらくその場に座っていた。
白装束は追っては来ないようだった。
友人の一人が、煙草を取り出し、火をつけた。
ふーっと煙を吐いた瞬間、空気が変わった。
月明かりが差し、虫の声が戻ってきた。
……戻れるかも、そう思い立ち上がると
見える距離に車があった。
俺たちは無事に帰れた、あの時友達が煙草を持っていなかったら
俺たちはまだ、あの鳥居の間で、彷徨っていたのかもしれない。
コメント