第十一夜「木箱」

自宅・実家

妹の知り合いのAちゃんから、急に連絡が来た。

「妹さんから、お姉さんがオカルト好きだって聞いて

どうしても会って、話したいことがあるんです」

大学の近くのカフェで会うと、Aちゃんは細長い木箱を持っていた。

そして、こう言った。

「押し入れの奥から、変な木箱が出てきたんです」

年季の入った木箱に、和紙で巻かれた黒髪が丁寧に納められていた。

見事な直毛。艶があり、生々しさが残っている。

「これ、いったい何だと思いますか?」

私は戸惑った。

「いや……わからないけど、供養されてたものなのかも……。

でも、私には判断できないかな」

そう言ったけど、本当はちょっと嫌だなと思った。

髪か、髪は”祈り”にも使うけど”呪い”にも使うんだよね

そう思って顔を上げたとき、Aちゃんがこちらを見て笑っていた。

にやにやと、不気味な笑顔を浮かべてる。

「……でも、あなたにはわかるはずです」

「え?」

「お姉さん、あの髪……見覚え、ありますよね?」

意味がわからなかった。だが、寒気がした。

背中にじわりと何かが這い上がってくるような気配。

「ちょっと、何言って──」

「……それ

──あなたの髪ですよ」

そう言ったときには、Aちゃんの姿はもうなかった。

まばたき一つ、という間に、そこからすっぽり消えていた。

家に帰って、妹に聞いた。

「ねえ、Aちゃんってさ、どういう子?」

妹はきょとんとした顔をして、首を傾げた。

「え? 誰のこと?」

「Aちゃんだよ。何回かうちに来たことあるったよね?」

「……お姉ちゃん、何言ってるの?」

「何って……Aって名前の──」

妹は、少し困ったように笑った。

「Aって、お姉ちゃんの名前でしょ?」

背中が、ひとりでに汗ばんでいた。

口の中が乾いて、なぜか“あの髪”の手触りを思い出した。

──私は、誰の話をしていたんだろう。

そうだ、Aは私。

なんで気づかなかったんだろう。

私に話してくれた、あの子。

あの顔──中学時代の、自分の顔じゃない。

そして、あの髪は……。

いじめられていた中学時代に、長かった髪をバッサリ切って

目一杯の呪いの気持ちを込めて、箱に入れたんだった。

なんで忘れてたんだろう。

でも、そうだとして──

なんで今になって、あんなのが現れたのか。

何を、私に伝えたかったのか。

あの箱は、あれ以来、開けれずに持っている。

……怖くて、開けられずにいる。

 

---今夜も「旅する怪談」をお読み頂き、ありがとうございました。怪談の旅はまだまだ続きます。次の夜も、どうかお付き合いください。---

※本記事に登場する地名・人物名は、実在のものとは関係ありません。あなたの身のまわりにも、不思議な出来事や忘れられない恐怖体験はありませんか?『旅する怪談』では、読者の皆さまからの体験談を随時募集しています。お寄せいただいた話は、当ブログにてご紹介させていただく場合がございます。体験談のご投稿は、【 投稿フォーム 】よりお待ちしております。

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