妹の知り合いのAちゃんから、急に連絡が来た。
「妹さんから、お姉さんがオカルト好きだって聞いて
どうしても会って、話したいことがあるんです」
大学の近くのカフェで会うと、Aちゃんは細長い木箱を持っていた。
そして、こう言った。
「押し入れの奥から、変な木箱が出てきたんです」
年季の入った木箱に、和紙で巻かれた黒髪が丁寧に納められていた。
見事な直毛。艶があり、生々しさが残っている。
「これ、いったい何だと思いますか?」
私は戸惑った。
「いや……わからないけど、供養されてたものなのかも……。
でも、私には判断できないかな」
そう言ったけど、本当はちょっと嫌だなと思った。
髪か、髪は”祈り”にも使うけど”呪い”にも使うんだよね
そう思って顔を上げたとき、Aちゃんがこちらを見て笑っていた。
にやにやと、不気味な笑顔を浮かべてる。
「……でも、あなたにはわかるはずです」
「え?」
「お姉さん、あの髪……見覚え、ありますよね?」
意味がわからなかった。だが、寒気がした。
背中にじわりと何かが這い上がってくるような気配。
「ちょっと、何言って──」
「……それ
──あなたの髪ですよ」
そう言ったときには、Aちゃんの姿はもうなかった。
まばたき一つ、という間に、そこからすっぽり消えていた。
家に帰って、妹に聞いた。
「ねえ、Aちゃんってさ、どういう子?」
妹はきょとんとした顔をして、首を傾げた。
「え? 誰のこと?」
「Aちゃんだよ。何回かうちに来たことあるったよね?」
「……お姉ちゃん、何言ってるの?」
「何って……Aって名前の──」
妹は、少し困ったように笑った。
「Aって、お姉ちゃんの名前でしょ?」
背中が、ひとりでに汗ばんでいた。
口の中が乾いて、なぜか“あの髪”の手触りを思い出した。
──私は、誰の話をしていたんだろう。
そうだ、Aは私。
なんで気づかなかったんだろう。
私に話してくれた、あの子。
あの顔──中学時代の、自分の顔じゃない。
そして、あの髪は……。
いじめられていた中学時代に、長かった髪をバッサリ切って
目一杯の呪いの気持ちを込めて、箱に入れたんだった。
なんで忘れてたんだろう。
でも、そうだとして──
なんで今になって、あんなのが現れたのか。
何を、私に伝えたかったのか。
あの箱は、あれ以来、開けれずに持っている。
……怖くて、開けられずにいる。
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